平成18年度長崎県学校図書館司書研究会・総会発表資料(松浦)

進化しつづける図書館であるために

 

平成18年度長崎県学校図書館司書研究会・総会発表資料
―「図書館再生5年計画」に基づいた図書館創り―

 

長崎南山学園
司書 松浦 純子

 

 

 

1 はじめに

 

長崎南山中学校、高等学校及び図書館の歩みを紹介します。
ドイツ人アーノルド・ヤンセン神父により設立されたカトリック宣教修道会「神言会」が母体であり、南山学園は名古屋と長崎にあります。また長崎教 区の神学生教育にも責任をもってあたるという大きな使命をもった創立54年になるカトリックの男子校です。中学生、高校生合わせて1047名の生徒、教職員88名が在籍しています。

 

世の中の動きとともに、大学進学に、体育系の部活動に力がつぎ込まれ、図書館が低迷した時代が南山にもありました。よく耳にする「いつも鍵がかかった暗い図書館」「自習時のみ使われる図書館」となっていました。

 

2 「図書館再生計画」1?2年目

 

司書教諭との出会いがこの図書館に大きな力をもたらしました。若いエネルギーいっぱいの中島先生とともに、「図書館見学」に励んだ時期でした。数多くの他の高校、中学校図書館をはじめ、 三日月町 図書館、浦安図書館、伊万里図書館などの公共図書館を見学することで、「南山学園図書館」に何を取り入れることができるか、またものすごい遅れを取ってしまっていた図書館を少しでも早く再生できるか試行錯誤の毎日でした。また先生は、校長先生をはじめ多くの教職員の先生方に「南山」の現状ではいけないということを言い続けてこられました。

 

司書として私は、図書館の本を1冊1冊台帳と照らし合わせ、図書館内の蔵書の把握にこの時期を費やしました。それと同時に「人」がいていつも明かりがついている図書館に今までとは違う異変を感じた生徒がくるようになりました。人が人を連れてきてくれました。しかしまだ、学校側の「図書館」に対する意識が遅れている状態でした。ここで考えたのが、「数字」で結果を出そうということです。この図書館を大きく変えてくれたのは、多くの「生徒たち」だったのです。創立50周年事業の一環で、蔵書を図書館システム「ライブラリーワン」によって管理することができました。最初は登録数7000冊からのスタートでしたが、大きな飛躍をする原動力となりました。

 

3 「図書館再生計画」3年目?5年目

 

図書費としての年間予算がつきました。10タイトルの雑誌、新聞4紙も館内で閲覧できるようになりました。連日150人の生徒が昼休み、放課後と図書館に集まる姿に学校側からも書架やすのこ掲示板等を購入する予算がつきました。図書委員活動も活発になってきました。

 

図書貸出冊数の推移

(雑誌・コミックは、貸出禁止)

  平成
12年度
平成
13年度
平成
14年度
平成
15年度
平成
16年度
平成
17年度
平成
18年度
4月   25   231 179 191 285
5月   18   389 468 423 550
6月   35   374 375 389 450
7月   40 52 299 440 346  
8月   18 56 94 206 119  
9月 2 28 252 343 465 278  
10月 3 33 340 306 457 351  
11月 5 45 334 389 410 241  
12月 3 50 266 215 394 416  
1月 2 25 267 465 562 538  
2月 1 32 303 256 269 264  
3月 1 19 151 155 238 148  
合計 17 368 2021 3498 4463 3705 1285

 

 

平成13年度 ○図書台帳作成
平成14年4月

○「図書館再生計画」始動ー蔵書を図書館システムにて管理・運営新聞4紙・

   雑誌10タイトル・年間図書購入費
○生徒の大幅なる利用者増及び貸出数アップに伴い書架等を購入し図書館内を整備

平成18年4月 ○人が入る図書館から総合学習に対応できる図書館
   館内を3スペースに分け、国語社会などの文型科目スペース
   理科系科目スペース,大学小論文職業関連スペース
   インターネット6台配置
   中学生の「朝読」スタート

 

この表はスタート時から今までの図書貸出数の推移です。5?6年でどうにか「学校図書館」をつくることができたかなと自負しています。

 

4 男子生徒と本について

 

男子生徒と本は無縁だと思われがちですが、そうではありません。いちがいにはいえませんが、タイプ別に話を進めたいと思います。

 

○本好きの生徒
幼いころに親から読み聞かせをたくさんしてもらった生徒は、ほっておいても本が気持ちの近くにあるみたいで、いろんなジャンルの本を読みます。時間と気分で電撃文庫などのかるい読み物からミステリー、ファンタジー、太宰治、時にはシェークスピアまで読書の幅が広いです。

 

○体育系部活生
部活生も大勢利用してくれます。案外単純で、「切ない小説ないですか」とか「「恋愛小説ないですか」などいってきます。「ダレン・シャン」等のファンタジー小説も好きです。読書熱に一回火がつけばしめたもので、周りの友だち、同じクラブにブーム到来となります。どうも遠征中のバスの中で読んでいるようです。読み物だけではなく、メンタル的な本、勝つための栄養や食事、筋肉のつけかた、テーピングの本など各部活動に合わせたくさんおいてあるのが、男子校ならではかもしれません。本来図書館でとっている雑誌の他に「サッカーマガジン」や「月刊バスケットボール」「スパイマスター」など先生方からの寄贈があり、昼休みに大勢の生徒で賑わう要因になっているかもしれません。しかし深く考えたりする内容や、ミステリーはどうも苦手なようです。

 

○電撃文庫などのライトノベルしか読まない生徒
そういう生徒は結構おとなしい性格の持ち主です。カウンター近くに陣取っています。ゲーム好きも多いようです。それしか読まない生徒がほとんどで、読書の幅を広げさせたいと毎年思っています。しかし生徒から話を  聞く機会があり、考えさせられたこともありました。例えば「半分の月がのぼる空」橋本紡作についていえば、この小説を読み進めていくと、「命」の大切さがわかるというのです。それは数人の生徒が同じ事を話していました。そして「銀河鉄道の夜」や「チボー家の人々」「山月記」をもう一回読み返したくなったそうです。しかし中学生の貸出リストには電撃文庫の小説が入っていません。どうも「朝読」で、表紙に絵がついているものはだめという決まり事があるみたいです。

 

○ホラー小説しか読まない生徒
山田悠介・乙一などしか読まない生徒もいます。どういうわけか明るく、友人が多い生徒が良く読んでいます。夜に読んでいてあまりの怖さと気色悪さにドキドキしたと友だち同士話をしているので、どうもホラーを楽しんでいるようです。

 

○かっこよさを求めるタイプ
奥田英朗「インザプール」「サウスバウンド」「空中ブランコ」「町長選挙」
金城一紀「GO」「レヴォリューション?3」「SPEED」
垣根涼介「ヒートアイランド」「ギャングスターレッスン」「サウダージ」
なぜかそれらを好む生徒は都会的な香りがする小説に憧れているようです。

 

○読みやすさ、旬の本だけにこだわる生徒
「Deep Love」シリーズのY oshi が書いた「翼の折れた天使たち」、「恋バナ赤、青」映画、テレビの原作などです。最近は「タイヨウのうた」「東京フレンズ」「スイッチ」「カフーを待ちわびて」など大人気です。Chacoの「天使がくれたもの」、「Line」など似たような内容で「恋愛に対する憧れ」があり、軽くよめるのでしょう。市川拓司の「恋愛小説」も大好きな恋愛小説です。「あおぞら」を読んで、感動したと生徒は言いますが、私はこの一連の小説に似ているなという感じをうけます。

 

○南山での大ベストセラー
ダン・ブラウンの「ダヴィンチ・コード」です。カトリックの学校でましてや神学生もいる図書館に、この本を置いていいものかと思いましたが、そこは男子校的発想で購入しました。昨年度も神学生をはじめ大ブームがおき、そして今年も映画の上映にともなって、今年の南山ベスト1です。「映画」から入る生徒、「小説」からの生徒と2通りですが、「小説」を先に読んだ生徒は必ず、物足りなさを感じているようです。図書館に最後の晩餐の絵画があるのですが、その前でダヴィンチのMの暗号で盛り上がっています。公立高校との大きな違いは、私立は月謝で支えられ、その上生徒一人月百円、年間1200円図書費を払ってもらっています。できる限り多くの生徒にいろんなジャンルの本を読んでもらえるように、生徒の要望が多かった「ダヴィンチ・コード」も入れたというわけです。

 

 

5 図書館は学校の、そして生徒達の情報源である

 

○学校の情報源
南山20年史、30年史、50年史過去の文芸誌をはじめ卒業生が出した出版物があります。部活動の機関誌もあります。「オープンスクール」のポスターをはじめ、生徒会が発行したパンフレット、国際交流のコーナー等さまざまです。

 

○生徒の情報源(図書以外)
・個人で自由に図書検索ができます。
・ 制限がかかったパソコンでニュース、進路等インターネット検索が使用できます。現在大学の合格発表はインターネットでの発表が多く、4,5年前から「合格発表は図書館で」が当たり前になっています。
・ 新聞4紙(長崎、毎日、朝日、西日本)と今年から始めた新聞の「スクラップ」で新しい情報を手に入れることができます。
・ 職業、進路、大学、専門学校、就職の資料が充実しているため、個人で自分の進路を調べている生徒が多いです。
・ 進路指導からの古い赤本があるのですが、生徒の利用が多く、主任の発案で、図書館にも60の大学のパンフレット等を集め進学のコーナーにおいています。そのアピールを始めたばかりですが、進路を決定する上での参考になればと思っています。

 

6 図書館と教職員、生徒を結ぶもの

 

○図書委員の大きな力
図書主任の考えで、以前は掃除をするだけの図書委員が、図書委員長を生徒会の役員から選出することで、生徒会をも通じて大きな力となりリーダーシップを発揮しています。各クラスの代表でもあり、中学生、高校生合わせて33人の委員達が、それぞれ分かれて広報紙作成、新聞のスクラップ係、図書館内の整備、広報に分かれ、決められた曜日のカウンター当番もかねて仕事をしています。司書だけでは到底できない仕事の心強いサポーターです。昨年度はライブラリーフェスタ、九州地区図書館研究大会長崎大会、長崎県高等学校文化祭などに参加し、他校の図書委員とディスカッションすることで、意識向上につながり「自分たちの図書館活動」をどうすればいいか考える機会となりました。先日も大勢の生徒が書いてくれた短冊で中学図書委員が七夕飾りをつくってくれました。男子生徒とはいえ、細かい仕事が好きな器用な生徒も多く、折り紙などは大得意です。

 

○図書館と教職員をつなぐ大きな力
学校にそして教職員の先生方の大きなパイプ役である主任の先生の力なくして図書館は進化できません。いかに日常の図書館を把握してもらえるか、それは「図書館日誌」です。今年で5年目に入りました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主任の先生と協力して、文化祭時には、「先生、生徒に読ませたい、感銘を受けた本を教えてください」というタイトルで全職員にアンケートをとり、全員の先生が、それに答えて下さり、一覧にして張りだし、生徒たちから人気をえました。また昨年は「南山中学生に読ませたい図書100選」をつくり、現在改訂版をつくっている最中です。中学部の先生も入学時にはそれを配布して下さり、生徒は各自持っている「生活の記録」にはっています。

 

この1、2年中学校を中心に資料等を使った総合学習の場として大いに活用されています。またここ数年進路が決まった高校3年生に読書を推進していただいています。神父様の講話「朝の心」においても、本の紹介をしてくださることもあり、先日は理科の先生の一言が、南山にとって空前の大ベストセラーになった本もあります。生徒にとって「先生の一言」はすごい大きさをもつものだと痛感させられました。校長先生や教頭先生も図書館に興味を持って下さり、出張の折りには他の学校の図書館を見学されているとのことです。

 

7 さいごに

 

「学校図書館」―静かに読書や勉強をする場所である。そういう発想から一歩進んで、授業で使われる図書館。また学校活動、たとえば生徒会活動の会議や、野球部などの体育系部活のDVD視聴を図書館で行ったりすることにより、いろんなことができる空間として使用されています。人を図書館に集めることで、幅が広がり、本に手が伸びて、貸出数アップにもつながっています。

 

また、お昼の校内放送を通じ、「今日のカウンター当番」や図書委員会の連絡事項や注意事項の案内することで、「図書委員会」の学校での意識付けにもつながっていると思います。
全国的な学校図書館の追い風が吹いている中、長崎県の公立学校は、図書館に司書不在という学校もあります。もう一度「学校図書館の大きな役割」を再認識するとともに、生徒達の本を見つけて「わくわくしている目」に答えてあげられる「人」の存在が大切ではないでしょうか。

 

(平成18年7月11日たらみ町図書館で開催された平成18年度学校図書館司書研究会・総会発表資料)

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